ベトナムニュース
東南アジア経済でベトナムが一人勝ちとなっている。2020年7~9月期の実質国内総生産(GDP)はプラス成長を維持した。インドネシアなどは新型コロナウイルスの感染拡大が経済を冷え込ませており、明暗が鮮明になっている。ベトナムは20年中に名目GDPでシンガポールなどを上回る見通しだ。

ベトナムの7~9月期は前年同期比2.62%増と、4~6月期に続きコロナ禍でもプラス成長だった。新型コロナの感染拡大で東南アジアの主要国が軒並みマイナス成長に陥る中で、新型コロナの抑えこみに成功したベトナムは成長を続ける。中国などから生産拠点の移管が増え、輸出が拡大している。国際通貨基金(IMF)は、ベトナムが20年中に名目GDPでシンガポールやマレーシアを抜き、東南アジア諸国連合(ASEAN)4位になると予想する。
ベトナムの成長の原動力は輸出増だ。ベトナムの10月の輸出額は267億ドル(約2兆8千億円)と前年同月に比べ9.9%増えた。商工省の予測では、20年通年の輸出額も前年比3~4%増を維持する見通しで、成長を支えている。
10月下旬、ベトナム南部最大の港湾カイメップ港に、デンマークの海運大手APモラー・マースクが所有する超大型コンテナ船が初めて入港した。従来はシンガポールなどの港を経由していたが、輸出量の拡大で、欧米を目的地とする超大型船が直接来るほど貨物需要が高まった。直接輸送はコストの削減や期間の短縮につながるため、ベトナムの輸出競争力の一段の向上につながる。
こうした輸出拡大の主因は、米中の貿易摩擦が始まってから加速する中国からの生産移管だ。米国の制裁関税を回避するため、多国籍企業や中国企業が人件費が安く、労働者の能力も高いベトナムに工場を移転している。既にスマートフォンの工場を持つ韓国サムスン電子は、中国のパソコン工場を閉鎖し、ベトナムに移転することを検討する。
新型コロナの累計の感染者数がわずか約1300人で、経済への悪影響が最小限にとどまっている点も大きい。全土で外出制限を実施したのは4月の約3週間だけで生産活動は域内でいち早く回復した。失業の増加を抑え、GDPの7割を占める個人消費も底堅い。

ベトナム以外のASEAN主要国は依然、マイナス成長から脱却できていない。7~9月期のGDPが前年同期比2.7%減だったマレーシアは、6割弱を占めるサービス業が4%減となり、足を引っ張った。とりわけ観光関連産業の不振は深刻で、マレーシアホテル協会は「10月下旬の客室利用率はわずか20%で、このままでは追加の人員削減などに踏み切らざるをえない」と悲鳴を上げる。
16日発表のタイの7~9月期のGDPも6.4%減と、3四半期連続のマイナス成長となった。
IMFの20年通年のGDP予測では、ベトナムが1.6%増となる一方、シンガポールとマレーシアは共に6%減、タイは7.1%減に沈む。名目GDPベースでは、ベトナムがシンガポールとマレーシアを抜き、ASEAN10カ国中、1位のインドネシア、2位のタイ、3位のフィリピンに次ぐ4位となる。
ベトナムの1人あたりGDPは約3500ドルと、なおシンガポール(約5万8500ドル)やマレーシア(約1万200ドル)より小さいものの、新型コロナが域内の経済規模の序列変動を加速させている。
GDPが域内最大のインドネシアでは新型コロナの感染拡大が続いており、マレーシアも10月以降、「第2波」の発生に苦しむ。高水準の感染が続く限り、消費者の外出手控えなどで経済活動は停滞し、景気の回復は遅れる。ASEAN各国は21年に成長率が大幅に改善するシナリオを描くが、新型コロナの状況次第ではベトナムの一人勝ちが21年前半も続く可能性がある。
ベトナムにも不安要素はある。米大統領の当選を確実にしているバイデン前副大統領は、中国に引き続き厳しい姿勢を取るとの見方が多い。ただ、仮にトランプ政権が課した対中制裁関税を取り下げるなどすれば、中国からの生産移管の動きが鈍る可能性がある。
21年1月の共産党大会を控え、ベトナム政府は20年に公共投資を前年以上に増やしてきたが、21年にはその効果も薄れる。共産党大会後に発足する新体制の経済のかじ取りが、ベトナムの中長期の競争力を決めることになる。